2020/05/27
皆様こんにちは。
ギャッベアートギャラリーの高橋です。
皆様いかがお過ごしでしょうか?そろそろギャッベ展も再開していく予定ですので、皆様にお会いできる日を楽しみにしております。
さて今回紹介させて頂く本はこちら、東京美術発行の『すぐわかる イスラームの美術 建築・写本芸術・工芸』
すぐわかる イスラームの美術 建築・写本芸術・工芸 表紙 表紙上部の写真はスペインのアルハンブラ宮殿、左上がモスクのランプ、右中央がトルコのタイル、左下がエルサレムの岩のドーム、右下がイランの絵画である。
私事ですがこの本は大学時代にイスラーム美術の講義の教科書として用いられた本であったので、とても思い入れのある本のひとつです。この本は桝屋友子先生によって書かれたもので、その特徴としてまず小さい!わかりやすい!!絵が多い(フルカラー)!!! タイトルどおり絨毯を含めたイスラーム美術を学ぶ第一歩として最適な本であるとオススメできます。入門書として最初はイスラームとは、イスラーム美術とは何ぞや、から始まり、その後いくつかの建築、絵画、工芸品を例にあげ解説が行われていきます。
私たちが扱っている絨毯もイスラーム美術の一つであるといえます。たとえばイスラームでは偶像崇拝の禁止によりあまり宗教的な空間において人物や動物の表現が避けられるようになりました。その代わりに発展したのがアラベスクに代表される植物表現、一寸のずれなくリズミカルに描かれる幾何学文様、彼らの使用するアラビア文字が原型となった文字装飾などです。イラン含めた中東地域での宗教と美術の関係は私たちが考えているより深いものなのかもしれません。当然これらの装飾は絨毯にも頻繁に使用されます。
植物・幾何学表現の一例 すぐわかる イスラームの美術 建築・写本芸術・工芸p.117より引用 このような表現はイスラーム世界で広く見ることが出来る。こうした装飾は一般にアラベスクと呼ばれペルシア絨毯等にも頻繁に用いられる。
文字装飾の一例 すぐわかる イスラームの美術 建築・写本芸術・工芸p.114より引用 神の文字であるアラビア語はそのまま装飾芸術として使用されるようになった。特にモスクやその中にあるメッカの方角を指すくぼみ(ミフラーブ)の周辺などに描かれることが多い。
内容としては三章で構成されており、第一章が建築、第二章が写本芸術、第三章が工芸になっています。絨毯については主に第三章で述べられています。イスラーム世界においてこれらの美術分野は別々に発展していったわけではなく、おのおのが影響を与えつつ発展していったものであると考えられています。特にイスラームにおいて神の言葉を示したものであるコーラン(クルアーン)に施された装飾は絨毯にも大きな影響を与えたと考えられています。建築からは例えばモスクにある壁のくぼみ、いわゆるミフラーブなどは絨毯でも頻繁に用いられるデザインの一つです。
コーラン(クルアーン)装飾の一例 すぐわかる イスラームの美術 建築・写本芸術・工芸p.71より引用 中央部大きな文様(メダリオン)を配置しその周辺にアラベスクを描き、外周を線(ボーダー)で囲むという様式に写本装飾と絨毯との共通点をうかがうことが出来る。
イスラーム美術はとーっても奥が深くまた、私たち日本人にはとっつきにくそうな印象があるかもしれません。ただその美しさ、雄大さは他の地域に全く引けをとらず、今日まで独特の発展を遂げてきました。イスラーム美術を学ぶ上で非常にオススメの一冊です。機会があれば是非読んでみてください。